星月夜

水は、0℃で凍って100℃で蒸発します。水に備わるこの性質は、私たちのカラダの50-70%が水でできていて、体温が、水( 液体)の範囲に設定されていることと、無関係ではないでしょう。

水分子同士の結合のしかたが変わることで、全体のカタチや振る舞い(相、そう)が、個体(氷)、液体(水)、気体(水蒸気)とが変わります。人間はおよそ35℃~40℃で生きているので、水( H2O)は液体で、固体になることも、気体になることもありません。しかし、細胞の中にあるタンパク質は、この体温の範囲内で、細胞の状況に応じて、サラサラ、ベトベト、ネトネト、カチカチといった具合に、あたかも気体⇆液体⇆固体に相を変えることで、機能を果たしています。

今週読んだ面白い論文では、細胞が、内側の水を外に吸い取られて、体積が20%減った時に、液体状に(ベトベトに?)なるタンパク質があって、数秒から数十秒以内に細胞活動を緊急中断させる役割を果たしている、という発見が報告されていました。このタンパク質は、いわば体積のセンサーとして働いて、細胞が減った体積に対して本格的な対応を始めるまでの時間を稼いでいるらしい。自分自身と結合する能力をもったタンパク質(人体には無数に存在する)は、結合に必要なエネルギーと細胞内の濃度が絶妙に調整されていて、細胞の要求に応じて相を(サラサラ、ベトベト、ネトネト、カチカチに)変えれるように進化してきただろう、という議論は、生物の進化の奥深さ、複雑さ、巧妙さを感じさせます。

つまり、細胞は水( H2O)が液体でいられる35℃~40℃の間で生きているが、その中にあるタンパク質は、この温度の範囲内で、状況に応じて液体に近い状態になったり、個体に近い状態になったり、を行ったり来たりできるようになっているということです。この絶妙なバランスの大切さは、人生の後半で、もう解くことができないほどカチカチになってしまったタンパク質が蓄積して神経細胞の機能を破壊してしまう神経変性疾患という病があることからもわかります。

さて、細胞の中に、サラサラ、ベトベト、ネトネト、カチカチの区画が、現れては消え、消えては現れることを繰り返している、という様子は(私には)簡単には想像ができませんが、このゴッホの「The Starry Night」(日本語で、星月夜)という絵を見た時、なんとなく、、なんとなくですが、こういう感じかな、と思いました。なので、最近は帰宅してからの研究頭を切り替えるために、iPadでThe Starry Nightを毎日少しずつなぞりながら、細胞の中を想像しています。サラサラ、ドロドロ、カチカチの区画が発見できます。The Starry Nightが完成したら、次は、それをさらに細胞と細胞小器官に描き換えて、The Stirry Cyte (ドロドロ細胞)にする予定。

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