2024年の終わりに

今年の最大のニュースは、神経システム病態研究室(浅川研究室)がスタートしたことでしょう。神経変性疾患、特にALS(筋萎縮性側索硬化症)の病態解明と治療法の開発をメインのテーマにした研究室です。ALS研究では比較的珍しい、ゼブラフィッシュという熱帯魚を主な実験モデルとして使用します。

ALSの研究を始めてから10年以上が経ちますが、その間に、興味深い発見や実験モデルが蓄積しています。研究室をスタートした最大の効果は、新しいメンバーが、これらのこれまでの蓄積に加えて、私の発想とは別の、思いもつかないようなアイデアで研究を展開してくれることでしょう。今後は自分だけでなく、研究室の仲間とともにこれらの研究を推進し、ALSの原因究明に1日でも早く近づきたいです。

2025年に加わる新メンバーと一緒に、魅力ある研究を展開したいです。

写真は、国際ALSシンポジウム in モントリオールでの講演。

神経システム病態研究室@国立遺伝学研究所が、スタートしました。

国立遺伝学研究所で、新しい研究室をスタートすることになりました。

研究室の名前は、神経システム病態研究室です。

身体の動きを生み出す運動神経回路の、未だ知られていない基本的な性質を探求します。そして、そこから得た新しい発見をもとに、神経変性疾患である筋萎縮側索硬化症(ALS)の原因究明と治療法の開発に取り組みます。

博士研究員と大学院生を募集中です!

研究室のスタートを記念して、モデル生物として用いるゼブラフィッシュの小さいステンドグラスパネルをデザインしていただきました。窓からの光を受けて、輝いています。

2023年の終わりに

今年は、ずっと報告できなかった実験結果を論文として残すことができました。

一方で、新しい研究成果を報告するための二報の論文は、自己評価と世間の評価に大きな乖離があることが明らかになりましたので、来年は修正して、乖離を縮めたいと思います。

旅先で見た、青空と雲が半分半分の空で、2023年を締めくくりたいと思います。

うで立て伏せの衝撃と感動

サンディエゴで開催された第5回神経疾患におけるRNA代謝カンファレンス(5th RNA metabolism in neurological disease conference)に参加。思っていた以上に反響があり、 今後も検討を続ける価値が十分にあることが確認できてよかった。私の技術を使うことで、効果的にアプローチできる問題がある。研究者個人としては、誰にもスクープされることなく、論文になってほしいと思う。けれども、この研究は「せりか基金」というALS研究を支援する一般の方々からの、「ALSの原因究明」を目指す研究に対する寄付金をもとに推進しているので、寄付してくださったみなさんの熱い想いや強い願いから生まれた研究成果が私の手元に止まることなく、一刻も早く他の研究者の思考や実験の役に立ち、ALSの研究が少しでも前進しなくてはならない。なので、5月の時点で、確証がとれた部分から発表するという、通常ではやらないスピードで演題を投稿し(てしまっ)た。結果として、口頭で会場全体に発信する枠がもらえて、「あたなのゼブラフィッシュの中で調べてみたいんだけど」という話にも発展し、期待していたとおり、他の研究者の活動にも貢献する形になりそうで、よかった。これに満足するわけには到底いかないが。

さて、このブログを書いたのは、会議中に目にした二つのシーンを書き留めておきたかったから。

一つ目。SMA(脊髄性筋萎縮症)とよばれるALSとともに運動ニューロン病に分類される、運動ニューロンの変性が原因で筋力が衰えてしまう小児の難病の遺伝子治療に関する発表。体に全く力が入らず自力では動けないSMAの赤ちゃんの、なかなか観るのがつらい動画から始まり、その後、SMAの遺伝子治療を受けた少女が、主治医とお母さんのまえで腕立て伏せをして、普通に動いている動画が流された。音声は出なかったが、「先生は腕立て伏せできる?」と聞く少女に、主治医の先生が「私は年寄りだからできないよ」というような会話のシーンらしい。こういった動画があることは聞いていたが、これを目の当たりにすれば驚きを超えて感動しかない。科学は信頼できる。広い基礎研究の裾野があって初めて到達できた高嶺の一つといえるのでは。

二つ目。ある種のALSの治療法の提案に関する発表。今後、さらに研究が推進されていくことになるのだと思うが、「この方法は公平に考えて根拠が乏しい」と重鎮を真っ向から批判した若手がいた。周囲の制止を振り切ってしばらく激しい議論が続いた。場の空気を全く気にせず批判し合うのは、とても健全で、議論の戦いで問題のレベルを上げていくスタイルはアメリカの凄さを感じさせる。強いリーダーシップとそれに対する批判が共存している。