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Stay-at-home scienceの成果

今週は、1週間のうちに2編の総説が受理されました。論文はそんなに頻繁に受理されることはないので、珍しいことです。一気に悦びがくるのはもったいない感じもしますが。

この2報の総説は、昨年の春ごろから書き始めたもので、光遺伝学ALSモデルの研究からみえた疑問点と、ゼブラフィッシュを使ったALSモデルについて、どういった視点から一般化できて、将来の研究に繋がられるかをたっぷりと考えることができました。コロナウイルスによる半Stay-at-home状態の時に話が来たので、できるだけ原稿を書こうと引き受けましたが、やはり、論文を書くというのは簡単なことではありません。締め切りをちょっと延ばしてもらったりして、困難がありましたが、いろいろと考えがまとまってよかったです。論文を読めば読むほどに考えが深まり、先人の偉大な努力の積み重ねに、ただただ畏怖の念を覚えました。

近日中に公開されると思います。なんとかこの2編の総説を和訳して、一般の方々にも少しでも伝わるようにしてみたいと思います。

投稿後にデスクトップマックがこわれるというハプニングがあり、アドビ・イラストレーターで描いた図を、ほとんど初めてのInkscapeで描き直さなければならなくなりました。いまでは、だいぶ上達したので、怪我の功名です。

下図は、Inkscapeで描けるようになった図です。

昨年の3月9日に書き始めた総説を、修正して編集者に送り返しました。長い時間がかかっていますが、とても勉強になりました。脱稿が近い、、と思いたい。

原稿から解放された束の間、芥川龍之介の「鼻」を読みました。

鼻が長いお坊さんのお話です。

唇の前に垂れ下がって、弟子に持ち上げていてもらわないと食べないほど、長い鼻です。

お坊さんは、長い鼻がもたらす生活上の困難さの他に、鼻を笑われて傷つく自尊心に悩んでいます。

研究にも、研究が進まない科学的な悩みと、研究が評価されなかったり批判されたりしたときに乱れ動く自尊心からくる悩み。両方あると思います。

今まで深く考えたことはありませんでしたが、「鼻」を読んで、乱れる自尊心の構造、少し理解できた気がします。

科学的な悩みに集中できると思います。

光遺伝学でALSの謎を照らす(7、結)

(6)からの続き

筋肉の収縮をコントロールする神経細胞「運動ニューロン」が、形や機能をだんだんと失って(変性して)、身体を動かせなくなってしまう病気、筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、運動ニューロンにTDP-43と呼ばれるタンパク質が塊をつくって溜まることが知られています。この事実が2006年に発見されて以来、TDP-43の塊が発揮する毒性が原因で運動ニューロンが変性すると一説には予想されていますが、この説の検証が待たれています。

我々は、2020年に発表した論文で、青い光を照射すると塊に変化するTDP-43(オプトTDP-43)を開発しました。この新しいアプローチを使って、TDP-43の塊に毒性があるのか否かを検証しました。さて、TDP-43の塊に毒性はあるのでしょうか?

光を使ってタンパク質をコントロールする“光遺伝学”という手法の強みの一つは、タンパク質に起こる変化を、光のON・OFFによって時間的にコントロールできることです。

私たちは、運動ニューロンが観察しやすい熱帯魚「ゼブラフィッシュ」を使って、運動ニューロンにオプトTDP-43を導入して、魚に青い光を照射すると、3時間後には、オプトTDP-43が、細胞核から、細胞核と細胞質を含む細胞全体に広がることを発見しました。

この後、青い光をさらに照射し続けると、やがて数日後には細胞質にオプトTDP-43塊が溜まり始めます。いっぽう、最初の3時間で青色光の照射をストップすると、オプトTDP-43は塊として溜まることなく、再び、照射前のように細胞核に戻ります。もし、オプトTDP-43の塊そのものに毒性が備わっているのならば、3時間の青色光では、運動ニューロンには異常は現れないはずです。そこで、3時間だけ青色光の照射をした後、光照射を止め、その後の運動ニューロンの様子を詳しく調べてみました。

その結果、3時間の青色光照射を経験した運動ニューロンは、その後、成長速度が著しく低下することがわかりました。さらに、筋肉と接続した運動ニューロンに対して、3時間の青色光を照射すると、筋肉との接続が弱まることがわかりました。

この結果は、オプトTDP-43が、塊として溜まるより前に、運動ニューロンにダメージを与えていることを示しています。

塊を作る前に毒性を発揮している、という予想外の結果が出たために、この実験の当初の目的であった、TDP-43の塊そのものに毒性が備わっているのか、という問いの検証にはなりませんでした。以前のブログ、「上流にさかのぼる」では、TDP-43の塊が(1)毒性の源である、という可能性と、(2)毒性を軽減するためにTDP-43を一まとめにして細胞を保護しようとした痕跡である、という可能性を、いずれも肯定も否定もできないことに触れました。我々の、オプトTDP-43を使った実験でも、この問題は解決できませんでした。

ともあれ、この研究によって、これまで予想されていた前の段階で、TDP-43が運動ニューロンにダメージを与えている可能性が高いことがわかりました。これが今回の研究で得られた最も重要な知見の一つです。

ALSの真の原因に迫るためには、TDP-43 が細胞質で塊を作るよりも前の段階、すなわち、細胞質のTDP-43の濃度が上昇する原因を探ることが有効なのではないか、と予想して、現在はその方で研究を展開しています。

さて、このPerspectiveの稿のタイトル「Do not curse the darkness of the spinal cord light TDP-43」は、“暗闇を呪うより、ロウソクを灯そう (Don’t Curse the Darkness, Light a Candle)”、という中国のことわざにちなみました。7回にわたって、できるだけ内容を平易にして書きました。Perspectiveの最後の一文に、今後の期待を込めます。

“The optical inaccessibility of the spinal cord has been and will continue to be a major obstacle to understanding the dynamic nature of TDP-43 in the spinal motor neurons during both healthy and diseased states. We envisage that optogenetic TDP-43 should serve as a candle to overcome the darkness of the spinal cord. ”

“運動ニューロンが、光が到達しにくい脊髄の中にあるということは(つまり、生体内での観察が容易ではないということは)、これまでも、そして、これからも、運動ニューロンの中でのTDP-43のダイナミックな振る舞いを理解することに対する大きな障壁であり続けるでしょう。光遺伝学TDP-43が、この脊髄の闇を克服するロウソクになるのではないかと期待しています。”

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今年の初めに発表した光遺伝学ALSモデル(Asakawa, 2020)について、まとめとこれからの展望をPerspective記事としてNRR誌に発表しました。記事をもとに、説明を付け加えて和訳しました。

【出典】

Do not curse the darkness of the spinal cord, light TDP-43. Asakawa K, Handa H, Kawakami K (2021) Neural Regen Res 16(5):986-987.

2020年の終わりに

今年のはじめ、2月の末に、光遺伝学ALSモデルに関する論文を発表することができました。2月の末といえば、コロナウイルスが決して侮れない、気をつけなくてはならないウイルスである、という意識が世間に広がりつつあり、論文の余韻に浸るまもなく、時代が変わってしまった感じでした。

今年の書き初めは「自然との対話」で、自然と真摯に向かい合い、耳を傾けることを目標にしました。振り返ってみると、自然とは、コロナウイルスであったように感じます。幸い、ウイルスには感染することなく、過ごせました。

これまで、不連続な大きな時代の変化は経験したことはありませんでした。今年はそれです。時代は突然に変わることはあるのだなと。

ラボにいけない時は、総説、その他を三編書きました。結構大変でしたが、実りある時間でした。残りは2021年に出版されることでしょう。

論文は、コロナウイルスでどこかに飛んで行ってしまったような感じがしましたが、stay-at-home期間に頭を捻って地道に書いた申請は、いくつかが受理され、2021年につながったと思います。光遺伝学ALSモデルの発展を支えてくれた「せりか基金」賞を再び頂くことができました。また、今年の後半になると、論文を読んでくださった方が、声をかけてくれることが増えました。

2021年は、粘り強く、この流れを大切にしたいと思います。

光遺伝学でALSの謎を照らす(6)

(5)からのつづき

全身の筋肉が衰える難病、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう、ALS)では、筋肉の伸び縮みのコントロールや、筋肉への栄養補給を担当している神経細胞「運動ニューロン」が、失われます。多くのALSでは、形や機能が失われていく(変性する)運動ニューロンに、TDP-43(ティーディーピー43)と呼ばれるタンパク質の塊が溜まることが知られています。

前回の「光遺伝学でALSの謎を照らす(5)」では、体がほぼ透明な熱帯魚ゼブラフィッシュの稚魚を研究材料に使えば、生きた動物の体内の運動ニューロンの内部まで詳しく観察できることを説明しました。この運動ニューロンに、青い光を吸収すると塊をつくるように細工を加えたTDP-43(オプトTDP-43)を導入し、青い光を照射すれば、オプトTDP-43が塊を形成し、ALSの運動ニューロンのようなTDP-43の塊が再現されるのでしょうか?

この実験をする前の予想は、オプトTDP-43は塊を形成するけれども、ALSのような状態にはならないのではないか、というものでした。なぜならば、TDP-43は、健康な状態では、遺伝情報か入っている細胞核(さいぼうかく)という球形の膜の中に豊富にあるので、青い光を照射すれば、細胞核の中で塊を形成するだろう、と(図)。一方で、ALSの運動ニューロンで、TDP-43の塊が溜まるのは、細胞核の外側の、細胞質(さいぼうしつ)という区画です。ALSの状態を忠実に再現するには、細胞質にだけ青い光を照射するという高度な技術がさらに必要になるだろうと予想していました。

ところが、実際に得られた結果は、この予想に反していました。運動ニューロン全体に青い光を照射すると、細胞核に豊富あったオプトTDP-43は、数時間後には細胞全体に広がり始めました。さらに、数日間、青い光の照射をつづけると、細胞質にオプトTDP-43の塊が溜まることがわかりました。細胞核の中にあったTDP-43が、細胞質で塊をつくる、というあたかもALSで想定されているような現象が再現されました。

なぜ、細胞核に豊富にあったオプトTDP-43が、細胞質で塊をつくることができるのか?これは、今ある知識だけでは説明は難しいです。ここに、まだ知られていないTDP-43の性質が隠されているはずです。

この実験でやった操作は、青い光を照射してオプトTDP-43のCRY2の部分をつなぎ合わせることだけです。ということは、一つには、TDP-43分子同士がどのように結合しているかが、細胞内の分布(細胞核か細胞質のどちらにいるのか)に、とても大切な意味を持っていることが予想されます。この予想が正しければ、ALSの運動ニューロンで、細胞質にTDP-43の塊が溜まるのは、TDP-43同士の結合の仕方が変わるからである可能性があります。

さて、この予想外に興味深い結果に至る前に、私たちは、ゼブラフィッシュの筋肉細胞や体表を覆う上皮細胞を使って実験をしていました。これらのタイプの細胞は、サイズが大きいので、オプトTDP-43の変化を捉えやすいと考えたからです。しかし、これらの細胞では、青い光を照射しても、オプトTDP-43は細胞核に留まったまま、一向に変化を示しませんでした。ダメ元で、運動ニューロンでやってみて、ダメならこのオプトTDP-43のプロジェクトはもう止めましょう、という最後の一回で、オプトTDP-43の細胞質への移行が確認できました。スレスレで、やめないですみました。

この結果は、実は、運動ニューロンという細胞が、他のタイプの細胞よりも、TDP-43を細胞質に溜めやすい性質をもっていることを暗示しています。ALSでは、なぜか運動ニューロンだけ変性する、という不思議な現象の謎を解く上で、大切な知見かもしれません。

この実験で、TDP-43の塊の細胞質での蓄積を、光を使ってコントロールできることがわかりました。今までにない新しい実験法なので、TDP-43の新しい性質を明らかに出来るに違いありません。

光遺伝学でALSの謎を照らす(7)へつづく

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今年の初めに発表した光遺伝学ALSモデル(Asakawa, 2020)について、まとめとこれからの展望をPerspective記事としてNRR誌に発表しました。記事をもとに、説明を付け加えて和訳しました。

【出典】

Do not curse the darkness of the spinal cord, light TDP-43. Asakawa K, Handa H, Kawakami K (2021) Neural Regen Res 16(5):986-987.