細胞に凍てる雫、TDP−43液滴とALSの接点を探る(7)

(6)からの続き

健康な細胞の中のTDP-43タンパク質は、遺伝情報が収納されている細胞核(さいぼうかく)という球形の区画の中に豊富にあります。

細胞核の内側をよくのぞいてみると、満月に光の濃淡があるかの如く、TDP-43の分布は不均一で、ある種の構造を作っていることがわかります(図)。このような構造体は、核内構造体(かくないこうぞうたい)、あるいは、Nuclear body(ヌークリアー ボディー)、などと総称されているので、以下、NBと総称します。NBは均一ではなく、様々な種類があることが知られています。

顕微鏡でさらに詳しく観察してみると、NBを形作るTDP-43は液滴のようにみえますが、その中にあるTDP-43分子は、液滴の外のTDP-43分子と一定の割合で置き換わり続けています。あたかも、コップの外側についた水滴がじっとしているように見えても、実は、コップに冷やされて液体になる水分子と、水滴から空気中へ蒸発する水分子の出入りがあるのと似ています。

例えば、TDP-43が、パラスペックルと呼ばれるNBに多く留まるようになると、タンパク質を作るためのRNAを制御するTDP-43の機能が低下する例が知られています。つまり、TDP-43が液滴をつくる性質と、RNAを制御する性質は密接に関わっていることがわかります。

細胞がストレスにさらされると、TDP-43を含んだNBは、細胞核内の分布を大きく変化させます。たとえば、細胞内に活性酸素を発生させるようなストレスを加えると、細胞核のTDP-43は、通常の状態よりもよりはっきりとした液滴を形成するようになります。この時、TDP-43は、結合するRNAの種類を変えて液滴を変化させていることが知られています。

細胞にストレスがかかるとTDP-43液滴の形成が促進されることに、いったい、どのような意味があるのか、正確にはわかっていません。しかし、数あるALSの原因となるTDP-43の変異のうち、RNAに結合しにくくなるような変異がおこると、ストレスが与えられてもTDP-43液滴の形成が促進されなくなり、その代わりに、細胞核の外側(細胞質、さいぼうしつ)のTDP-43の量が増えることが、近年明らかにされました。ALSでは、細胞質にTDP-43の異常な塊が形成されることが知られていますので、一説には、細胞核でTDP-43液滴を作ることは、細胞質に漏れ出るTDP-43の量を減らすことで、細胞を健康に保つ効果があるのではないか、という考え方が提唱されています。

また、TDP-43の量が減少すると、遺伝情報が書き込まれたDNAに起こる損傷が、修復されにくくなることが知られています。このことから、TDP-43はDNAの修復に必要であることが分かりますが、RNAと結合する性質を利用してDNAを修復するのか?、また、そのような機能には液滴を作る性質が必要なのか?については未解明であり、今後の重要な研究課題であると考えられています。

このように、細胞核の内側にあるTDP-43は、細胞の状態に応じて柔軟に形を変えて、細胞の健康を維持しています。

次の章では、細胞核の外側のTDP-43の働きを解説します。

細胞に凍てる雫、TDP−43液滴とALSの接点を探る(8)へ続く


出典

Asakawa, K., Handa, H. & Kawakami, K. Multi-phaseted problems of TDP-43 in selective neuronal vulnerability in ALS. Cell. Mol. Life Sci. (2021)

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