神経細胞の形や機能がだんだんと失われる病気、神経変性疾患では、神経細胞に異常なタンパク質の塊が溜まることが多いです。この異常なタンパク質の塊は、長い時間をかけてできあがると考えられていて、これを実験で再現するのは、容易ではありません。その為、どのように異常な塊が作られるのか?あるいは、その塊は細胞にとって良いものなのか、悪いものなのか?など、基本的で大切な問題の理解が遅れています。
この問題を解く方法として、最近、optoDroplet法(ここでは、光ドロップ法と訳します)が発明されました。この技術は、植物が備えている光を感じる力を利用します。
このブログを書いている今は12月中旬、もうすぐクリスマスですが、例えば、ポインセチアが赤くなるのは日の当たる時間が短くなるからで、植物が光に反応している証拠です。話を戻しますと、シロイヌナズナという植物にあるクリプトクローム2(以下、CRY2と記します)というタンパク質は、青い光を吸収すると自分自身と結合して、2つのCRY2分子が結合した状態になります。このCRY2の性質によって、光環境に対処するために必要な遺伝子群が働き始め、シロイヌナズナは、花芽を作ったり、成長したりしています。さらに、CRY2分子の一部を切り取ると、CRY2分子が2つではなく、いくつも集合して塊を形成します。このCRY2の集合能力を利用して、タンパク質を集合させて塊をつくる技術が光ドロップ法です。集合させたいタンパク質にCRY2を付けておけば、光を吸収してCRY2が塊をつくるついでに、目的のタンパク質も塊をつくるだろう、というアイデアです。光ドロップ法が登場する前は、病気に関わるタンパク質の塊は、細胞の中のタンパク質濃度を上昇させることで、作ることができました。しかし、多くの場合、タンパク質の濃度が上昇すると、それ自体が細胞に悪影響を及ぼすことがあり、結果としては、タンパク質の塊の細胞への影響を正確に評価することが困難でした。
筋肉の収縮をコントロールする神経細胞「運動ニューロン」が変性する筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、TDP-43と呼ばれるタンパク質の異常な塊が蓄積することが多いことが知られています。光ドロップ法をTDP-43に応用する為に、TDP-43とCRY2を融合させたタンパク質、オプトTDP-43が開発されました(図)。シャーレの中で培養された細胞の中でオプトTDP-43作らせて、細胞に青い光を照射すると、オプトTDP-43のCRY2の部分の集合がきっかけとなって、オプトTDP-43が徐々に塊をつくることがわかりました。このような細胞は、死滅する確率が格段に上昇することから、TDP-43の塊をつくる過程のどこかで、細胞がダメージを受けることがわかりました。すなわち、TDP-43が塊を形成することは、細胞に毒性をもたらすというわけです。
これが、実際にALSで起こっていることと、どのくらい似ているのか?
この問いを検証する為には、生体の中の「運動ニューロン」の中で同様の実験をして確かめるのが理想です。人体の「運動ニューロン」では、実験は無理ですから、体の奥深くにある運動ニューロンに光が到達しやすいモデル動物を選ぶ必要があります。
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今年の初めに発表した光遺伝学ALSモデル(Asakawa, 2020)について、まとめとこれからの展望をPerspective記事としてNRR誌に発表しました。記事をもとに、説明を付け加えて和訳しました。
【出典】
「光遺伝学でALSの謎を照らす(4)」への2件のフィードバック