光遺伝学でALSの謎を照らす(3)

(2)からのつづき

ALSで変性する神経細胞「運動ニューロン」には、TDP-43というタンパク質が塊となって溜まるケースが多いことが知られています。TDP-43は、414個のアミノ酸が数珠つなぎになってできています。タンパク質を作るのに使われるアミノ酸は、20種類ですが、この20種類をどの順番で414個並べるかは、ランダムではなく、TDP-43の情報を含んでいる遺伝子にきっちり記されています。

アミノ酸には、大きい、小さい、プラスやマイナスの電荷をもっている、水分子と馴染みやすい、など様々な個性があります。この個性の並び方によって、TDP-43の分子の形や働きが決まってきます。

これまでにわかってきたことは、414個のうち、はじめの100個ぐらいのアミノ酸の領域(図、濃いオレンジ)は、TDP-43同士がお互いに結合する為に使われています。また、この領域のプラスの電荷をもったアミノ酸の働きによって、TDP-43が細胞核の中に輸送されることもわかっています。

真ん中の領域(図、薄いオレンジ)は、核酸と呼ばれる物質(RNA)と結合します。TDP-43の大切な働きは、人間では2万種類ある遺伝子のうちの、6,000の遺伝子から、それぞれタンパク質が作られるのを助けることです。その為に、この真ん中の領域は欠かせません。

最後の140アミノ酸(図、赤い領域)は、天然変性領域(てんねんへんせいりょういき)と呼ばれていて、カチッときまった形を持たないで柔軟に形を変化させると予想されています。遺伝するタイプのALSの中には、TDP-43の変異が原因となっていることが稀にありますが、その変異はこの天然変性領域に集中しています。このことから、天然変性領域の性質が変化して、TDP-43が異常な塊をつくることが、ALSの原因になっているのではないか、と一説には予想されてきました。

この予想を検証する為には、実験で天然変性領域の性質を変えてTDP-43の塊を形成させることで、運動ニューロンが変性するのか否か、を検証しなくてはなりませんが、TDP-43の塊を再現するのは、とても難しく、この予想は検証されていませんでした。

しかし、2017年に、植物に含まれている青い光を吸収すると塊をつくるタンパク質を利用して、天然変性領域の塊を作らせる技術が開発されると、この予想を検証する道が拓かれはじめました。

光遺伝学でALSの謎を照らす(4)につづく

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今年の初めに発表した光遺伝学ALSモデル(Asakawa, 2020)について、まとめとこれからの展望をPerspective記事としてNRR誌に発表しました。記事をもとに、説明を付け加えて和訳しました。

【出典】

Do not curse the darkness of the spinal cord, light TDP-43. Asakawa K, Handa H, Kawakami K (2021) Neural Regen Res 16(5):986-987.

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