酵母菌について

今週は、2つの出来事があり、酵母菌に思いを馳せました。大学院生の時に、酵母菌を実験材料に使って、細胞分裂(細胞周期)を研究しました。酵母菌は、研究における心の故郷です。


1つ目の出来事は、今週初めて参加した領域会議。大学院生の時に、細胞周期はとても忙しい分野でしたが、オートファジーとよばれる細胞のリサイクル現象も分子メカニズムが分かり始め、急速に分野が拡大していた時期だったと思います。細胞周期もオートファジーも、酵母をつかった研究から分子メカニズムが解明され、発展した分野です。酵母研究は、陸上種目で例えるならば、オリンピックの100m走でしょう。生き馬の目を抜くような戦いに勝ち続けている百戦錬磨のソルジャーがひしめいています。今週、私があった研究者は、この20年間戦いを勝ち抜いてきた研究者たちでした。私は異分野由来ですが、鍛えていただいて、研究を発展させたいと思います。


2つ目は、細胞分裂研究の巨人、Amon博士の突然の早すぎる訃報に接したことです。学生時代、酵母をつかった研究で、テーマが重なりました。もちろん競争にはなりません。いわば象とアリの勝負で、大変な痛みを味わいましたが、筆頭著者の類い稀なる才能で、我々も論文を発表できました。20年ぐらい経って思い返してみると、なん度も読み返したAmon博士の論文は、私にとっては遺伝学と細胞生物学の教科書であり、研究の楽しさやスリルを早いうちに体験させていただいたと感じます。また、昨年発表された細胞成長と老化の論文は、私が分野を変えて現在取り組んでいる神経変性の研究にも深い示唆を与えてくれます。ついに直接お会いすることもなかったですが、あったこともないのに地球の裏側までこれだけ多くのものを与えてくれるのは、サイエンスのすごいところです。また、サイエンスを楽しむ時間には人それぞれに限りがあるとも考えさせられました。今日1日を大切にしたいと思います。

深い感謝とともに、心よりご冥福をお祈りいたします。

Yoshida et al., Current Biology 2002 より転載。https://doi.org/10.1016/S0960-9822(02)00870-9

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