脳の中にあるけれど神経細胞ではない細胞(グリア細胞)の一つ、アストロサイトがゼブラフィッシュにも存在するという論文が発表されました。アストロサイトがゼブラフィッシュで発見されたことで、ヒトやマウスなどでは調べにくかった、アストロサイトが脳の中で生まれてから機能を発揮するまでの仕組みが詳しく研究できるようになるでしょう。
全身の筋力が低下してしまう難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)では、運動ニューロンに加えて、アストロサイトにも異常が起こることがわかっています。ゼブラフィッシュでは、アストロサイトの異常に着目したモデル化が難しいのではないかと思っていましたが、これでゼブラフィッシュを使って異常なALSアストロサイトの再現ができるかもしれません。
ゼブラフィッシュを使って、ALSをどれくらい再現できるか、とよく質問されます。答えは、やってみないとわからない、ですが私は楽観的で、人間と同じ種類の細胞があり、ALSに関係している遺伝子も保存されているので、少なくともALSの一部分を切り取ることができるのではないかと考えています。
大学院で研究を始めてから7年間は、酵母菌を使って細胞分裂の研究をしました。細胞を分裂させる分子装置が、人間と酵母で同じ、ということは当時すでに明らかになっていました。しかし、実験のスピードが速いので新しい研究成果がほかの生物種よりも速くでやすい出芽酵母の研究は、仮説を提唱しても、酵母だけの現象で人間には保存されていないのではないか、と思われがちなことが多くありました。私が直接携わった分野ではありませんが、出芽酵母が提唱した概念が、一見類似性がなくても、時間が経って広く生命に保存さているということが明らかになる例を多く目の当たりにするにつれ、「あぁ、見えるひとには見えていたんだなぁ」と感動したことは少なくありません。
こういった経験から、私は、細胞も遺伝子も同じなのだから、ゼブラフィッシュでALSがモデル化されるのは当たり前で、モデル化されている部分に気付けるか、見えるかどうかが問題、ということだと考えています。
私に見えるのかはわかりませんが、ALS関連の学会では、モデル動物のデータに真剣に耳を傾けてくれる研究者が多いのは、「見えている」研究者が多いからかもしれません。

Wikipedia: コロンブスの卵、より転載。William Hogarth, Public domain, via Wikimedia Commons