動きの十二単構造について

Freestyle / 自由形

この動画は、産まれてから3日目の熱帯魚ゼブラフィッシュの仔魚(しぎょ)の泳ぎのスローモーションです。体長は、およそ3ミリメートル。

全体で200ミリ秒の動画で、その間に7回シッポを振っていますから、1秒間では35回、つまり、35ヘルツの泳ぎです。結構、速いです。よく見ると、胸ビレも左右交互に動いていて、まるで水泳の自由形のようです。この時期の仔魚は、危険から逃避する時はさらに泳ぎのスピードをあげることができます。

2004年頃から、一部の神経細胞の機能をシャットアウトすることで、行動を操作するという研究(Asakawa, 2008)に取り組みました。当初は、右にシッポを振ることができるが、左には振れない、というような状態を簡単につくることができるのではないか、と期待していました。しかし、泳ぎの左右のリズムが遅くなることはありましたが、左右の動きを非対称にすることは実現しませんでした。今思えば、動きをコントロールする回路のしくみが、そもそも、この細胞は右、この細胞は左、というような役割分担にはなってはいなかった、ということです。

後に教科書を読んで、運動回路の本質は「重複(redundancy)」である、と書かれているのを読んで納得です。最初は、まず遅い左右リズムを生み出す回路が形成されます。産まれてから1日目のゼブラフィッシュ胚は、はじめは1ヘルツ(1秒間に1回)ぐらいのリズムからスタートします。身体の成長に伴って、その上に、新しい神経細胞が加わって少し速い左右リズムの回路が付け加えられ、その上に、さらに少し速い回路、といった具合にいわば十二単(じゅうにひとえ)のように積み重ねられつくられていき、動きはどんどん速くなります。(実際の十二単は、重ねれば重ねるほど動きはどんどん遅くなると思いますが。。)

つまり、速いリズムの回路を阻害しても、それより遅い回路が残っているため、左右性は保ったまま、リズムが少し遅れるという結果になります。やがて、おそいリズム回路の機能も失われ、リズム回路を全部を失った時に、動けなくなります。逆にいえば、このような重複構造のおかげで、通常はそう簡単に身体が動かなくなることはないのです。これは真理としては納得でしたが、研究は厳しいものでした。

さて、この経験は、ゼブラフィッシュをつかった筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデル(Asakawa, 2020)を作製するのに、大切な示唆を与えてくれます。ALSは、運動ニューロンと呼ばれる筋肉を収縮させる神経細胞が失われ、やがては身体を動かすことができなくなってしまう病です。ゼブラフィッシュの運動ニューロンで、ALSと同じような異常を再現できた時、すぐにそれが身体の動きの変調としてあらわれるでしょうか?相当な数の運動ニューロンが、影響を受けない限り、あからさまな動きの変調は検出できないかもしれません。筋力が試されるような荷重(急流に逆らって泳ぐ、など?)を与えられると、早期に、運動ニューロンのダメージを、身体の動きの変調として捉えられるかもしれません。

身体の透明性を活かして運動ニューロンを直接観察する、という得意技をもったゼブラフィッシュは、身体レベルの変調が現れるのを待たずに、できるだけ早期の運動ニューロンの変化を再現、発見することが期待される課題です。

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