ミツバチは、食べ物や、紙、布、ロープなどに使われる植物繊維の収穫に必要な受粉をする為に、世界中を飛び回って活躍しています。近年の人間のライフスタイルの変化から、受粉への需要がこれまでになく高まっていて、ミツバチは自然界では存在しないような密度で生きていくことを余儀なくされています。
現在、人間界では新型コロナウイルスが蔓延していますが、ダニを介してミツバチに感染するウイルスもいます。ミツバチの密度が上昇するに従って、ダニやウイルスの感染が増え、これが原因でミツバチの数が大きく減少しています。
ミツバチのグループ(コロニー)は、体を覆う硬い膜(キューティクル)で仲間を見分けます。コロニーには、キューティクルの検査をして、よそ者を見分ける“門番”ミツバチがいます。ウイルス(IAPV)が感染してミツバチの体内で免疫応答がおこると、どうやらキューティクルが、門番ミツバチに見つかりにくいように変化するようです。これによって、感染ミツバチは、よそのコロニーに容易に侵入できるようになります。

一方、ミツバチは口から口へ食べ物を交換する栄養交換(Trophallaxis)を行います。これが、コロニー内でウイルス感染を拡大します。仕組みはわかりませんが、感染による免疫応答がおこっているミツバチとの栄養交換の頻度は低下するようです。感染ミツバチの運動性に変化はなく、具合が悪くて動けない、ということではないようです。感染を拡大させないための、なんらかの防御反応がおこっている可能性があります。
つまり、キューティクルを変化させて、コロニーからコロニーへ、どんどん拡大しようとするウイルスと、その感染を防ごうとするミツバチとの“軍拡競争”が起こっているわけです。ウイルスの感染は、コロニーとコロニーがとても離れている自然界ではなかなか拡大しません。しかし、養蜂など、ミツバチが密集するようになった現代では、常に、ウイルス感染の危険性があるのです。
生物が接触する機会が増えすぎると、ウイルスによって密度の調整が行われる、という現象は、脈々と続く自然の摂理と言えるかもしれません。
このウイルスとミツバチの関係は、新型コロナウイルスと人間の関係に似ています。
この論文が、新型コロナウイルスのパンデミック宣言の1ヶ月以上前、2020年2月6日に投稿させていることにも注目したいです。
出典:Honey bee virus causes context-dependent changes in host social behavior (https://www.pnas.org/content/117/19/10406)